第一幕

 


 とある小高い丘。向こうには城と街が見える。
 舞台の左側(観客から見て左側。以下同じ)からエドワード現れる。馬から降り、馬を舞台左端の木につなぐ。

エドワード:
 今日もこの丘に来てしまった。しおん様に会いたくて、この丘に来てしまった。
 俺のような名もなき騎士がしおん様に会っていることが知られたら、俺はどんな刑を食らうだろうか。生きたまま八つ裂きか。いや、死んでもいい。しおん様に会えるなら、俺は死んでもかまわない。
 しおん様はいつ来るだろうか。分からない。俺は剣の練習でこの丘に来ているということになっているから、剣の練習をして待つことにしよう。

 エドワード、剣を抜いて素振りをはじめる。

エドワード:
 集中できない。敵の姿を思い浮かべられない。思い浮かぶのはしおん様の姿ばかり。蛮族に囲まれたこの王国を守る騎士の一人であるはずなのに、この情けなさ。しおん様が見られたらどう思うだろうか。ああ、早く来てほしい。しおん様。

 エドワードが剣を振っているところへ、舞台の右側から馬に乗った女性の騎士が現れる。顔はまだ見えない。エドワードの背後から馬に乗ったままゆっくりと近づく。エドワードが振り向いたとき、女騎士の顔が見える。

エドワード:
 お美しい……。
しおん:
 ……。
エドワード:
 お待ちしておりました、しおん様。いつ見ても、お美しい。
しおん:
 エドワード様。遅くなりました。今日は城の門番が、新しく門番になられた方で、真面目なのはよいのですが、少し疑われまして。馬上で失礼ですわね。

 しおん、馬から降り、馬を舞台右端の木につなぐ。馬の首筋をなでると、エドワードに向かって礼をする。

エドワード:
 私のために危険を冒してくださるなんて、こんな光栄ありません。
 お城でのドレス姿もお美しいが、騎士の姿もお美しい。
 お会いできるのを心待ちにしておりました。お姿を見られただけで満足です。今日はお早めに帰られた方が。
しおん:
 私もエドワード様にお会いしたかった。
 一目みてすぐ帰るなんてできませんわ。明日もお会いできるならそれでも我慢できるかもしれませんが、今日はお伝えしなければならないことが。
エドワード:
 私に伝えたいこと? 何かを伝えたいくらいに私を思ってくれるなんて、それだけでも身に余る光栄。
しおん:
 エドワード様を傷つけてしまうことを覚悟の上でお話しします。大変申し上げにくいのですが、ぜひお聞きになってください。
エドワード:
 しおん様のためなら、多少の傷など訳のないこと。どうぞ。
しおん:
 私、結婚することになりました。
エドワード:
 ……。
しおん:
 お相手は今は申し上げられませんが、私の父、私たちの王に古くから仕える由緒ある家のお方。この国になくてはならない人。私たちの王が決められた結婚。私は、お従いすることにしました。
エドワード:
 おめでとうございます。ご結婚、本当によかった。
しおん:
 エドワード様を傷つけてしまったこと、よく分かっています。あなたの心をもてあそんだのは私。どうかお許しを。
エドワード:
 こうなることは始めから分かっていたこと。お相手は誰とは存じませぬが、私たちの王がご判断された方ですから、きっとすばらしいお方。あなたを幸せにできる力のあるお方でありましょう。本当によかった。私は悔いなくあなたを忘れることができるでしょう。
しおん:
 私は、エドワード様を忘れない。
エドワード:
 いやいや、忘れてください。私のことなど思い出しては目が曇る。新しい門出が見えなくなります。
しおん:
 最後に、わがままなお願い。私を抱きしめてください。

 エドワード、しおんを抱きしめる。

エドワード:
 もう、別れましょう。これ以上あなたを見つめていると、あなたのことが忘れられなくなる。
しおん:
 エドワード様。
エドワード:
 お会いするのはこれが最後。さようなら。

 エドワード。しおんを離れて舞台の左側、馬の方へ歩き出す。しばらく歩いたときに、風が吹く。

しおん:
 あっ。

 しおんのかぶっていた帽子が風に乗って飛ばされ、エドワードがそれをつかみ取る。

エドワード:
 しおん様の気持ちよくわかりました。この上なき幸せ。
 春は風が強い。しおん様の心が風で飛ばされぬように。

 エドワード、引き返して帽子をしおんに渡す。

しおん:
 あなたの心を最後までかどわかしてごめんなさい。
 あなたのために、あなたのことを忘れます。さようなら。

 しおんが踵を返し、舞台の右側に歩いていき、エドワードも左側に歩いていく。そのまま幕が下りる。


 

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